ミトラmemo18 金正日という悪夢は日本の闇社会が育てた① 続き 

中央公論2003.8
8表紙
http://www.zassi.net/detail.cgi?gouno=4003

覚醒剤・偽札・不審船・・・・組織犯罪高度化の10年を追う

金正日という悪夢は日本の闇社会が育てた 岡部匡志(読売新聞東京本社社会部記者)

p57~59
 1997年4月、宮崎県・日向市の網島港に、北朝鮮籍の貨物船「チソン2号」が 寄港し、木材とともに、18リットル入りのハチミツ缶12個を陸揚げした。太平洋側の港に、北朝鮮船が入るのは珍しい。厳しいチェックの目を光らせた税関 職員の一人は、缶の底のはんだ付けが、不自然に乱れているのを見逃さなかった。缶は二重底に改造されており、末端価格で85億円に相当する58キロの覚醒 剤が、12のビニール袋に小分けにされ、缶の底に隠されていた。

 この覚醒剤は中国製だったが、荷積みされたのは北朝鮮・南浦港だった。船には、朝鮮労働党員が乗り込み、北朝鮮工作機関の暗号用乱数表も発見された。北朝鮮政府が、組織ぐるみで覚醒剤の密輸に関与していることを立証した初めてのケースだった。

  さらに翌98年8月には、東シナ海で、漁船を装った北朝鮮の工作船から、暴力団幹部らの密輸グループが覚醒剤300キロを受け取った事件が発覚した。この 密輸グループは、当局の追跡に感づいて高知県沖で覚醒剤を海に捨てたところ、日本の警察・海保当局にその一部を拐取され、摘発された。この覚醒剤もやはり 成分を分析したところ、予想通り、メタンフェタミンが99%という高い純度を示した。その後も、北朝鮮ルートによる覚醒剤の大量密輸の摘発は、①鳥取県境 港(99年4月、100キログラム)、②鹿児島県黒瀬海岸(99年10月、564キログラム)、③島根県温泉津(ゆのつ)港(2000年2月、294キロ グラム)、ヨン福岡県沖玄界灘(2002年1月、151キロ)-と続発している。2001年12月、奄美大島沖で沈んだ北朝鮮の工作船も、覚醒剤を密輸す る目的で日本の領海に近づいた疑いが強い。

 もともと覚醒剤の密輸は「四回に一回成功すれば、十分にペイする」と言われ、摘発例があること自体、「実際には、誰にもしられることなく、密輸に成功するケースが多いことを示している」と警察幹部は指摘する。

 公安当局によると、日本国内で1年間に消費される覚醒剤は10トン前後。ほとんどは外国製で、洋上での取引価格は1キログラムあたり150万円から200万円といい、一年で150億円から200億円の日本円が、覚醒剤取引にからんで外国に流出している計算になる。

 警察当局によると、98年から2002年の間に、日本国内で押収された覚醒剤のうち、北朝鮮を仕出し地とする物は34.6%だった。この押収量から見て、3割程度が北朝鮮製とすると、北朝鮮には年間、50億円前後が流れていると見ることができる。

  もちろん、こうした密輸の代金を北朝鮮に支払っているのは、暴力団をはじめとする日本の闇社会である。米国のボルトン国務次官(軍備管理・国際安保担当) も、今年6月の米下院外交委員会で「北朝鮮の核などの大量破壊兵器開発に、日本の組織的な犯罪ネットワークなどからの送金が充てられている」と証言し、 ダーティーマネー(犯罪資金)を北朝鮮に流している日本の犯罪ネットワークに米国が強い関心を寄せていることを明らかにした。

闇社会と北の核開発を結ぶ点と線
 だが、北朝鮮がどのようにして、取引相手の暴力団と接触しているのか。どのように覚醒剤の密輸を持ちかけているのか。北朝鮮による日本国内での工作活動が少しずつ明らかになる中でも、北朝鮮と日本の闇社会との接点は依然として謎のままだ。

 実は日本警察が、その深い闇に迫ろうとしたことがある。

  1995年4月23日午後8時半すぎ、東京・南青山にあったオウム真理教本部前の路上で、教団「科学技術相」だった村井秀夫幹部が、一人の若い男に刺殺さ れるという事件が起きた。その場で逮捕された男は、自称右翼の徐裕行受刑者で、数日後には、指定暴力団山口組の傘下団体「羽根組」の幹部から、村井幹部の 殺害を指示されたと供述した。このため警視庁は、この幹部を殺人容疑の共犯で逮捕したが、東京高裁は1999年3月、「殺害の指示を受けた」とする徐受刑 者の供述について信用性を否定するとともに、この幹部が殺害を指示する動機も明確でないとして、この幹部を無罪とする一審判決を支持し、東京高検も上告を 断念している。

 実は、この事件の捜査にあたった警視庁の内部でも、当初から、羽根組幹部が徐受刑者に対し、村井幹部殺害の指示を出した とする見方には疑問があがっていた。徐受刑者が三重県伊勢市にある羽根組の事務所に月に一、二度顔を出すようになったのは、事件の半年ほど前からで、正式 な組員として活動していないなど、組とのつながりはそれほど深くなかった。警視庁の捜査員たちがむしろ注目したのは、徐受刑者の交友関係だった。

 韓国籍の徐受刑者は事件直前まで、韓国籍、朝鮮籍を問わない20歳代、30歳代で作る都内の在日グループと接触を重ねていた。 このグループには、複数の広域指定暴力団に所属する組員も、系列を越えて加わっており、徐受刑者が羽根組に出入りするようになったきっかけも、中学時代の 同級生であるグループのメンバーに誘われたからだ。もちろん警視庁も、彼らがどんな活動をして、既存の暴力団とどんな関係を持っているのか、グループのメ ンバーから事情聴取をするなどして実態を把握しようとした。だがメンバーの供述はほとんど得られず、徐受刑者との関係や、村井幹部刺殺事件の背後関係は結局、解明できずに終わっている

  オウム真理教の一連の事件をめぐる真相に最も近いところにいると言われた村井幹部は、なぜ殺害されたのか。当時の教団幹部の中には、捜査当局に「第三国を 経由して、北朝鮮へ渡航している。武器を調達しているのではないか」という情報を寄せられた人物もいた。しかし、この事件は、不可解な謎とともに、警視庁 の捜査力をもってしても突き止められない在日社会の裏面をも捜査関係者に見せつけた。

 1997年から相次いで破綻した五信組の受け皿に なった「ハナ信用組合」(本店・東京)に対し、整理回収機構が検査に入ったところ、今年に入って、架空名義の預金が54億円分も残っていることが判明し た。いったい、この巨額の資金の持ち主は誰で、何に使われれることになっていたのだろうか。今のところ、一人として真の預金者が名乗り出てくる気配はない という。

 不正送金について、第三国経由やハンドキャリーによる金の流れを捕捉するのは難しく、覚醒剤密輸も、長い海岸線を持つ日本で は、水際ですべてを防ぐのは不可能に近い。対処療法ではだめなのだ。警察庁も、北朝鮮が日本人拉致を認めた昨年9月以降、全国の警察に対して、北朝鮮の工 作活動が在日社会や暴力団とどうかかわってきたのかを徹底して調べるよう指示を出している。だが、実際の捜査は容易ではない。

 「日本の 裏社会の実態を解明しなければ、北の資金源を絶つこともできないだろう」と同庁幹部は言う。だが一方で、この幹部は「戦後50年を経て、日本社会の暗部 に、いつの間にか彼らのネットワークの一部が深く浸透してしまった。そこに、われわれ警察が入り込むことは容易ではない。まして、その全容を把握すること は困難だ」と嘆くのである。

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